ブランドストーリー
初めまして。zen hand drawingの山本と申します。
このブランドを立ち上げたきっかけは、2011年12月に実父である創業者・初代社長のバトンを受け取り、私がその後(有)琢磨を継ぐことから始まります。
Webデザイナーから伝統産業の世界へ
私は大学を卒業した後、日本とカナダで3年間ウェブデザイナーとして働いていました。
2010年、東京で働いている時、父親から電話がきました。内容は「体調を崩したので、家業を手伝ってほしい」とのこと。今までに直接、手伝ってほしいだの、継いでほしいだのと仕事関係のことは一切言われた事が無かったので、逆にそう言われた事にびっくりして飛んで京都に戻ってきました。
日常にある、ありふれた着物
昭和14年に祖父・故山本卯三郎が山本卯染工という染め工場を創業しました。(現在は伯父が継いでいます。)
そのため私が物心が付いた時には、祖父と伯父は着物の染めをしていて、父は着物を持って営業に行っていました。家にも着物の反物や着物そのものが至る所に置いてあり、そのことが普通で特にそれに対して疑問も何も持っていませんでした。
日常にありふれすぎたものと認識していたせいなのか、正直着物には全く関心が無く、父親もあまり自分の仕事の話をしなかったので自分の父親が【着物関係の仕事】ということ以外、どういった仕事をしているかもよく分からないまま育ちました。
手描き京友禅・職人さんとの出会い
東京から京都に戻ってきたのはいいものの、私は着物に関して知識は全くゼロの状態。
荷物を取りに行ったり、届けに行ったりは出来るものの、一人では何か聞かれてもその言われてる意味がちんぷんかんぷん。
この時私の知っている着物に関する知識は、成人式で振袖を着て着付師さんに知識を吹き込まれた女の子以下だったと思います。
その後、半年間ずっと父親と一緒に職人さんのところを一軒一軒付いて行き、分からないなりに「見て・聞いて・触れて・話して」を繰り返して、何とかどのようにしたら手描き京友禅の着物ができるかを勉強してきました。
あなたは「職人」と聞いてどのような方を想像しますか?
もしかしたら、その想像は私が職人さんに会う前の職人像と一緒かもしれません。
- 頭が固そう
- すごい偉そうにしてそう
- ちょっと聞いたら怒られそう
- とにかく厳しい
少なからず会う前のイメージはこんな感じでした。職人さん申し訳ありません。
しかし会ってみると、まったく違いました!
私のような若造に対しても、特に他の人と変わることなく接してくれる気さくな方。
また、そこまで自分のことは話さないけど仕事やその技術についてきっちり説明していただける少しシャイな方。いつも仕事以外のことも気をつかってくださるとても謙虚な方。
とにかくどの職人さんも優しくて、基本以下のことでも聞いたら何でも教えて下さり、想像と180度違ったので、逆の意味で驚かされました。
「えっ!?」「ほんまに??」の連続
こだわりの製作工程でもご紹介していますが、着物のことはもとより手描き京友禅について何も知識が無い私にとって、たくさんの工程を踏んで商品が形になっていくのを見ていると毎日驚きの繰り返しでした。
全て手で作られているとは聞いていたものの、実際に
- 下絵(デザイン)-パソコンを使わずに手でデザインを描く
- 糊伏せ-出来上がってるものを買ってそのまま使うのではなく、糊を自分の好みに合うようになるまで混ぜ合わせる。
- 糊伏せ-色がはみ出さないように堤防を糊で作る
- 色合わせ-微妙な色を出すために一滴ずつ色を加えて濃度を変えていく
- 友禅-グラデーションを手で描いて演出をする
- 金彩-立体感や豪華さを出すため、息をするだけ飛んでいきそうな1/10,000mmの金箔を綺麗に張りたい箇所に張っていく
工程をみると(もちろんこれらだけではないですが)、IT業界しか知らなかった私は「なんて手間のかかることをしているんだ」「そんなことも手でするのか」と驚かされていました。しかし同時に、「これをパソコンではやれないし、やろうとしてもこの深みは全く出来ないんだろうな」とも感じ伝統産業の奥の深さに感激しています。
この世でたった一つのもの
私たちの商品は大量生産のものではありません。一点一点全て手作業で作られ、同じデザインであっても全く同じものは存在しません。
ぱっと見ただけでは分かりませんが、着物で使う白い生地を一反まるごと使うので、生地に紋(地紋)が入ってるため絵柄が描かれている位置がそれぞれ異なったり、線が少し内に入っていたり外に出ていたり。機械だと完璧に出る線も、人間がやっているからいい【味】になって出来上がってきます。
こういった所も、手描き京友禅の魅力の一つです。
古き良きをオモシロク
zen hand drawingでは、手にする人みんな【会話が生まれる】商品を作っていきます。
商品を使って下さる方が身につけ話たくなる、それを見た人が「それいいね!どこで買ったの?」と聞かれる、だから身につけたくなる、そのような製作方法は昔からあるものを使うけれど、古くさくない新しいものを提案していきます。
この手にする人の中には、もちろん作っている職人さん達も入っています。「これ面白いやん」「あの商品その後どんな感じや?」「これこうしたほうがいいんちゃうか?」等の会話が生まれる気になるものにしていきたいと考えています。
なぜかと言いますと、手描き京友禅の利点である分業制では、職人さんは基本的にその一つの工程だけに特化して何十年もかけて技術を磨いています。そして、私たちのようなプロデューサーがその工程が終わったら、次の工程にその商品を持っていくため、どの工程も技術を極めた職人さんがいるため、良い商品が出来上がります。
これは色んなデザインのものをレベルの高いところで効率よく作るという点では本当に素晴らしいシステムです。
しかし、職人さんはその工程しか行わないため、前半の工程しかされない方はほぼ出来上がりを知りませんし、どんな色がつけられているのかも分かりません。
業界的には普通かもしれませんが、やっぱりこれって少し寂しいですよね。自分が携わったのに形が見えないなんて。
なので、すごい小さなことですが、作って頂いた全ての職人さんにも完成品を見て頂いて、それも一つのモチベーションとして頂いています。
zen hand drawingではただ単に、今まであった着物の柄を使って形にするのではなく、使っていただくお客様のシチュエーションや今の生活に合ったものを手描き京友禅を使ってモダンに表現していきます。
きっかけを作りたい
あなたの会社で働いている方の平均年齢は何歳くらいですか?
以前私が働いていたIT会社だと20代後半でした。
手描き京友禅の職人さんは熟練した技術・経験が必要です。多くの方が独立するまでに10年以上の修行をしています。
私たちの周りの職人さんも30〜50年もの経験を積んでおり、その平均年齢が65歳になります。
私が初めてこの業界に入った時に驚いたのが、この年齢の高さももちろんですが、それに加えて後継者問題です。
時代が変わり、着物を着る人口・機会の減少により、京友禅は風前の灯と言ってもおかしくない状態になっています。
【京友禅京小紋生産量調査報告書】によると
京友禅(手描きのみではなく、型染・機械捺染・インクジェットを含む)の生産量は、
- 2012年446,636反で、1971年ピーク時16,524,684反の僅か2.7%
- 10年前の2002年と比較しても、847,294反で52%
手描き京友禅だけの生産高で言えば、さらに状況は厳しく2002年の185,907反に対して、2012年は69,614反と、この10年だけでも37%になっています。
手描き京友禅とは何か?ということを知っていただく機会を増やす
需要がなければ供給する側、つまり職人さんも減っていきます。
以前は弟子を持っていた職人さんたちも今では一人で仕事をしていて、後継者を育てる資金がありません。
受け継ぐ人がいないということは、つまりこのままでは大切な伝えるべき文化がなくなっていってしまう。これは大変なことだと思いました。
今の若い人は一昔とは違って、あらゆる種類の選択肢があります。何なら働かなくてもなんとか生きていけます。しかしそういった状態だからこそ、職人が何をしているか、どういった流れで大量生産出来ない【この世でたった一つ】の商品ができているかを知って頂きたい。
私たちzen hand drawingは、そういった特別なものを世の中にたくさん出していき、若い方がこれだと思える仕事に出会えるきっかけを作れれば、職人も増え、文化が若返り、世界により素晴らしい文化を発信でき、必ず伝統産業を盛り上げていけると思っています。