手描き京友禅のメインパート!友禅こと色挿し
- e2014/04/16
- a製作工程
引き染め・蒸し水元と終わったので、ようやく手描き京友禅で一番重要なパートである柄への色付けに入ります。
(※手描き京友禅では『色を塗る』ということを『色を挿(さ)す』と表現します。)
背景色を付ける引き染めでは基本的に作る色は1色ですが、友禅の色作りはそういうわけにはいきません。
色数は柄の数によって違ってきます。1個の柄でもパーツによって色分けされます。
例えば、桜の柄だけでも、
- 桜の花(ピンク)
- 幹(茶)
- 葉っぱ(緑)
と最低3色作ります。
緑といっても色を付ける場所によって、濃い緑と薄い緑、その中間の緑を作るので、一つの商品を製作するのに何十もの色を作る必要があります。
何を使って色を付けていくの?
それでは友禅の工程では何を使って色を作っていくのかご説明します。
染料と顔料
染料屋さんで売られている染料の元の粉を買ってきて、お湯で炊きます。
この粉は、イエロー/オレンジ/レッド/バイオレット/ブルー/グリーン/オリーブ/ブラウン/ブラックのようにベースの色があります。例えばグリーンでも、青色よりのグリーンと、黄色よりのグリーンのように色合いの違う染料が売られています。
最近では粉をお湯で炊くという手間を省くためにリキッドタイプの染料も売られているようですが、粉のものに比べて日持ちがしないので、職人さんは粉タイプを使われている方が圧倒的に多いです。
白色の場合だけ特別で、白い染料というものはありません。胡粉(ごふん)と呼ばれる白の顔料を水で溶いたものを使います。
ベースの色はこういったペットボトルに入れて保管しています。
自分が作った色を見ただけではどんな色か細かく分からないので、色名と濃度を書いたラベルを貼っています。
筆とハケ
友禅では大きく分けて3種類の筆とハケを使って色を付けていきます。
- 彩色筆-1色のベタ塗り用。
面積の広い場所を一気に色を挿すときや筆先を使って細かい場所を挿すときに使う万能筆。 - 片羽刷毛-主にぼかし(グラデーション)用。
穂先が斜めにカットされているので、穂先の長い方に色の染料を付け、短い方に水を付けて色を挿す事でぼかしを作る事ができます。 - 平刷毛-片羽刷毛とは違い、穂先がまっすぐ揃ったハケ。
色をムラなく均一に挿す時に使います。穂先の長さが一緒なので、カーブのあまり無いまっすぐとした幅が同じくらいの箇所に色を挿すときに使われます。
また、職人さんによっては彩色筆を使わず、この平刷毛だけを使って全てベタ塗りをする方もいます。
片羽刷毛と平刷毛はハケの幅が3mm〜3.6cmと様々なサイズのものがありますが、主に9mm〜1.8cmのものがよく使われています。
面積の広いところを挿すのに小さいハケを使うと、何回も手を動かさないといけません。その点、大きめのハケを使うと一度に塗れる範囲が広いので楽に塗れ、時間の短縮にもなります。
何回も挿す事とムラが出来るリスクがあるので、挿す場所に応じた筆やハケを使う必要があります。そのため職人さんはその柄の大きさや色によって筆やハケを使い分けるので、たくさんの種類の筆やハケを持っています。
彩色筆。
こういった細長い柄の場合は平刷毛より彩色筆のほうが色を挿しやすい。
片羽刷毛。
ぼかしを作るので、片羽刷毛を使います。
このぼかし簡単そうに見えますが、やってみると難しいです。
最初はどれくらいの水を付けるのか、染料を付けるのか、どのくらいの圧で挿すのかということが分からないので、自然に見えるぼかしを作るのはかなり難しく、経験が必要です。
どうやって色を付けていくの?
1.揮発地入れ
まずは下準備。
それぞれの柄に揮発油を生地の裏から軽く噴射して、ハケでムラなく馴染ませます。
友禅は糸目の中に色を付けていく工程。
ただこの糸目、生地の上には完全に乗っていますが、生地の中まで入り込んでいません。
どういうことかと言うと、糸目が生地の中まで入っていないと、筆やハケで色を挿した時、糸目が堤防の役割を果たせず、隣の箇所(別の色を挿したい場所)まで色がにじんだり、入ってきたりしてしまいます。
この揮発地入れをすることで、糸目を完全に生地の中まで浸透させ、そういったにじみを防ぐ役割があります。
2.色作り(色合わせ)
友禅の工程で色作りが終わると仕事の半分以上が終わったようなものと言われています。
それほど時間がかかります。
なぜそれほど時間がかかるのかと言うと、上記にもご説明した通りベースとなる染料(約10〜15色)からその柄に合った色や欲しい色を水、白の顔料、別のベースの色と混ぜて作っていきます。
目で見て判断
一言で紫と言っても、青みの紫(青紫)・赤みの紫(赤紫)、その中でも明るめの青紫や暗めの赤紫等の色を目視で作っていかないといけません。時間をかければ経験の無い方でも近い色までは何とか作れます。でも、最後その近い色に何を足せばいいのか分からないのです。それを理解し判断出来るようになるには長年の経験が必要です。
蒸し・水元後の変化
また蒸しで発色するので色が変わり、水元では生地に乗っている余分な染料が流れます。そういった色の変化を読んで色を作るので、単純に『色を作る』と一言でいうほど簡単なものではないのです。
完成した色でこうした色見本を作っておくことで、次同じ商品の依頼が来た時にも色作りがしやすい。
今回使う色。使う色が多ければ多いほど、色作りに時間がかかります。
にじみを防ぐために
筆やハケに染料を少ししか付けていなくても、染料を生地に付けた時、自分が思った以上に色が広がって付いてしまうことがあります。そうした『にじみ』のコントロールをするために、カゼインやトメゾールといったにじみ止めの溶液を少し加えます。でも入れすぎると染料が全くにじまず、油絵を描いているようになるので、入れ過ぎには注意します。
3.友禅(色挿し)
ようやく友禅こと色挿しに入っていきます。
糸目の内側に白の顔料(胡粉)を塗っていきます。
ハケに薄ピンクを少し付ける。
しべのところをピンクでぼかしていきます。
この時使うのが、片羽刷毛です。
穂先の長い方に少し染料をつけます。
この微妙な染料の量の違いで穂先の長い方は濃いピンクが来て、短い方になればなるほど薄い色になります。
次は前のピンクより少し濃いめの色を使う。
濃いめのピンクを使う事で色の濃淡(コントラスト)をつけることが出来ます。
ハケでは色を挿しにくいところは、このような筆を使います。
色を挿す時に生地をピンっと張るため、引き染めの時にも使った伸子(しんし)を友禅の時にも使います。
裏はこんな感じ。
左上から右下、右上から左下に張っている伸子を左手で下から持って、右手で色を挿していきます。
下にはこういったコンロがあります。
これを使うことで、挿した染料がすぐ乾きます。
流水のところは始めに白の胡粉でベースの色を塗ります。
その後、青い染料を使い、
筆でぼかしを作っていきます。
これで完成!
配色法 – 濃淡での表現
同じベースの染料を使い、そこに水や胡粉(白い顔料)を入れていくことで、濃い/普通/薄い色を作ります。
(今回であれば、緑やピンク)
ベースの色が同じであれば、このように統一感が出てバランスのいい配色になります。
これは手描き京友禅ではとてもよく使われる配色法です。