水元(水洗い)-これで要らないものを流してくれる?
- e2014/02/17
- a製作工程
蒸しで色を定着させたので、これでようやく次の工程の柄に色を付ける友禅(色挿し)やより雰囲気を華やかにする金彩に進める!と思いますよね。
でも、その前にもうひと工程、地味ですが欠かすことの出来ない工程があります。
それが水元と呼ばれる水洗いの工程です。
この水元、約45年前までは京都の町を流れる鴨川、堀川、桂川で反物を洗っていました。
しかし、川に直接落とした糊や染料が環境を汚染するということから水質汚濁防止法の施行により禁止になりました。
そこで現在では、このようにして蒸し工場の中に人口川(幅2-3m,長さ10m)を作り、水洗いをしています。
何で水元(水洗い)をするの?
水元をすることで、生地についている余計なものを取ることができます。
糊を落とす
伏せ糊置きで置いた伏せ糊。これは引き染めをする時、柄の部分に背景色の染料が入り込まないようにするマスキングの役割を果たしています。
でもこの伏せ糊、引き染めが終わった後はもう必要ありませんよね。
水洗いをすることで、この要らない伏せ糊を落としていきます。
余分な染料を落とす
蒸しは、生地に色(染料)を定着させる工程です。
完全に染料が定着してるように見えますが、実際は目に見えない余分な染料が生地にまだ残っています。それを水元で完全に流してしまいます。
どんな水でもいいの?
「水であれば、何でもいい」というわけではありません。
水元の水はポンプでくみ上げた京都の地下水を使っています。
水温が一定
あなたも経験があると思いますが、水道水は「夏はぬるく、冬は冷たい」ですよね。
そうすると水温が一定になりません。
地下水は、1年を通して水温が一定(18度前後)です。
一定であれば、季節を問わず常に同じ環境で作業が出来るので、一日中水の中で作業をする職人さんにとっても優しいですよね。
余計なものが入っていない
地下水には余計なものが入っていません。
そのため、水に浸けたからといって色が落ちすぎたり、違う色に変わったということがなく「前はこうだったのに、今回は違う」ということが少ないので、手描き京友禅の商品にとても合っているのです。
水道水の場合、さまざまな不純物が混じっています。
その不純物のせいで、その都度予想していたものと違うものが仕上がってくるリスクがあります。
なにより、水道水に入っている塩素の影響で鮮やかな色が出にくく、灰色がかった仕上がりになることもあるのです。
さらに鉄分が入っていると、色が赤っぽく仕上がる可能性があります。
その点においても、品質が一定で余計なものが入っていない地下水を使う必要があります。
コストも安い
一日に大量の水を使う水元。
水道水を使っていたら、それこそめちゃくちゃコストがかかりますよね。
その点でも、地下水が有利と言えます。(その代わり、水が出なくなったら仕事にならないので、何十個も井戸を掘っているそうです。)
一日中、水と格闘される職人さん。
蒸し工場の社長が言うには「過酷な仕事のため、若い人じゃないと体力が持たない」そうです。
たっぷりある水の中に生地を浸けます。
これをしないと完全に乾燥してカチンカチンな糊を取ることが出来ません。
5分ほど浸けて、糊をふやかします。
ふやかした後、お玉の先のような金具を使って手で一つ一つ糊を取っていきます。
ふやかしていないと、糊が固すぎて全然取れません。
「水元の作業をしているとき糊だけじゃなく、自分の手もふやけてます 笑」とおっしゃっていました。
この作業を見るまでは、機械で糊を取っていると思ったので、「これも手作業なのか?!」と驚かされました。
糊を取った後、再び水洗い槽に生地を入れていきます。
「えっ、糊を取ったのだから終わりじゃないの?」「なんでまた入れるの?」と思いますよね。
私もそう思っていました。
見た目では糊は落ちているように見えても、まだ表面に見えないでんぷん糊や染料付いています。
触るとかなりヌメヌメしています。
それらをハケで取っていきます。
意外とそれほど力をかけず、ささっとこするだけ取れちゃいます。
左で生地を引っ張り、右手で表面に付いた糊を完全に落とします。
この後、天日干しをして、しっかりと乾燥をさせます。
まとめ
決して表に出ることはない工程、それが蒸し・水元です。
これらがないと、手描き京友禅の美しい色が生地に定着しないし、発色もせず商品になりません。
水元を一言で言うと、生地を水に浸けて、糊/染料を落とすという作業です。
しかし、その言葉以上に大変なことがいっぱいあります。
なぜなら、水に濡れた絹はとても繊細なので、このような事故が起こりやすいのです。
- スレ-摩擦による生地の損傷
- 折れ-水洗いした生地を畳んで置いておくと出来るシワ
- 打ち合い-布が重なった部分に、柄の色がもう一方に写ってしまうこと
そのため、手描き京友禅の中で、最も熟練した技術と経験が必要な工程の一つとなります。