どうやって生地の背景に色を付けるの?
「生地に色を付ける」=「生地を染める」
手描き京友禅では、色を付けるということを「生地を染める」と言います。
染めるとは、簡単にいうと「染料液で生地にその色をしみ込ませて色を付ける」こと。髪に色を付けるときに「髪を染める」なんて言いますよね。あれと同じで、生地に色を付ける時にも、「染める」という言葉を使います。
引き染めで生地を染める
私たちは引き染め(ひきぞめ)という染めの技法を使って生地の背景を染めています。
引き染めとは、ハケに染料をつけて生地の背景色を染める手描き京友禅の伝統的な染め技法です。
何を使って染めるの?
引き染めでは、以下の4つの道具を使って、生地に色を付けていきます。
- 1.染料
- 2.ハケ
- 3.伸子(しんし)
- 4.張り木(はりぎ)
1.染料
まず、私たちがどういう風なイメージの商品を作るか考えます。その後、色の見本を職人に渡しそれに忠実な色を作っていきます。その染料を作る作業を色合わせと言います。色合わせが終われば、ようやく染料が完成します。
これが染料です。写真では伝わりにくいですが、薄紫の染料を作りました。
2.ハケ
染料を生地に染める道具、それがハケ。
このハケの長さは約15センチで、持ったときに大人の手にちょうどフィットする大きさです。
染める色によって、ハケを分けています。
職人は色んな色に対応しないといけないので、同じ種類でも何十本ものハケ持っています。
全て鹿の毛で作られています。
一見つんつんして堅そうですが、実はとても柔らかくて気持ちのいい手触り!
使った後は洗って乾かします。そのまま外に置いておくと腐ってしまうため、冷蔵庫に入れて保管しています。要冷蔵です。
3.伸子(しんし)
伸子とは、生地をピンッと張るための道具。
これがないと生地が水平にまっすぐならないため、均一に色を染めることが出来ません。
竹で作られた伸子。
このように両端の先端に5ミリほどの針があります。これを生地の手前と奥の両端に刺していきます。
私たちのiPadショルダーバッグは、きものを作るときの生地(シルク100%)と同じ生地を使っています。
きものの生地の長さ、どれくらいあるかご存知?
長さは、12〜16メートルにもなります。ピンッと生地を張るため、約15センチ間隔に伸子を生地に刺します。
そんなに長い生地を一度に染めるので、1回の染めに必要な伸子は80〜100本!
もちろん職人は1日に沢山の生地を染めるので、何百本もこの伸子を持っています。
4.張り木(はりぎ)
張り木とは、生地の両端に挟んでを引っ張る道具。
このように、木の両端に縄が付いています。
張り木には針と穴が付いています。この針に生地を刺して挟みます。
張り木の長さは44.5センチ。生地の縦の幅が38センチなので、余裕のある長さです。
閉じるとこんなふうになります。
この張り木を木に引っ掛けて使います。
どうやって染めるの?
引き染めは、以下の手順で生地に色を付けていきます。
- 1.色合わせ(色作り)
- 2.地入れ液作り
- 3.伸子(しんし)張り
- 4.地入れ
- 5.染め
1.色合わせ(色作り)
色合わせは全て目視、目視、目視!
このようにベースとなる染料と水を混ぜた物で、色を作っていきます。
手で「見本切れ」と呼ばれる生地の切れ端に色を付けます。
その後、熱を加えて乾かします。
この引き染めの工程が終わると、色を定着させる「蒸し」の工程に進みます。
生地を蒸すことによって、発色が出て染めた時よりも少し明るい色に変化します。職人は、常にその色の変化を予想しないといけません。
簡易的にですが、このような小さい蒸し器で生地を蒸して色の変化を読んでいきます。
この読みを間違うと思ってた色とは違う色になってしまうので、職人は長年の経験と勘が必要になります。
「色見本」と「色合わせをした色」が合っているかチェック。
何度も微妙な色の調整をし、ようやく染料の色が完成。
2.地入れ液作り
色合わせで染料も完成したので、やっと染めに入る!と言いたいところなんですが、その前に「前処理」が必要なのです。
地入れ液を生地に付けるとことで、染料の吸着や色の発色を良くなり、同時に染めたときにムラが付きにくくすることができます。
これは布海苔(ふのり)と呼ばれる海藻の一種です。
布海苔を豆汁(ごじる)と水で溶かしていきます。
豆汁は、色を染めるとき生地に染料の定着をよくするため。
布海苔は、ムラなく色を平らに染めるために使用します。
煮立たせることで、布海苔が溶けてきます。
完全に煮立たせて溶かしきると、このような液になります。
これが地入れ液です。
3.伸子張り
染めに入る前に、生地に伸子を付けていきます。
張り木に生地の両端を挟んで、木と木に生地を吊るし、宙に浮かせます。
その後、生地をピンッと張るため、伸子を15センチ間隔に生地の端に刺していきます。伸子はこのようにかなりしなるので、簡単に折れることはありません。
4.地入れ(じいれ)
ここでようやく、前に作った地入れ液を生地に付けていく地入れをしていきます。
伏せ糊は完全に乾燥しているため、簡単にははがれることはありません。
裏もしっかり確認して、下処理が終わり染めに入っていきます。
5.染め
背景に色を付ける「染め」。地入れの液が完全に乾燥してから生地に色を染めていきます。
伏せ糊が置いてあるところは染まらず、背景だけが染まります。
私は初めてこの工程を見たとき、なぜ伏せ糊を置くのかようやく理解ができました。
このようにハケを使って、色を付けていきます。
染めムラが出来てないかの最終チェック。ささっと染めていくので、とても簡単そうに見えますが、ムラなく染めることは本当にむずかしい。
裏もしっかり色が染まりきっているかチェック。
終わりに
染め(引き染め)と一言で言っても、これら5つの工程を踏んでようやく背景に色を付けることができます。
私たちが作りたい生地の色を職人に伝え、職人が色作り/地入れ/染めをし、白い生地から色の付いた生地になるまで早くても3日はかかります。
また色を作るときは、1滴ずつ染料を混ぜ微妙に調整しています。
それにより色の表現の幅も増え、機械を色を作るよりも面白い色、いい意味で意外な色を作ることが出来ます。
そんな工程を踏んで染められたiPadショルダーバッグ。あなたも一度手にしてみませんか?